従来の通信の仕組みであるHTTPも次世代型のIPFSもともに動画や文章などのコンテンツのファイルを転送する仕組みです。
従来のHTTP方式は、アドレス(〇〇.com等、リンク)あてに、リクエストを送るとコンテンツが帰ってきます。
グーグルクロムなどのブラウザでリンクをクリックすれば、リンク先からコンテンツが送られてきて、見ることができます。
インターネットを実現したこのHTTPという仕組みはとても素晴らしいものなのですが、誕生から30年を経て、構造的な限界を意識せざるを得ない状況になってきました。
それはアクセスが集中してしまう構造です。例えば、あるネットコンテンツが世界中で話題になったとします。この時世界の多くの人たちが一つのアドレスあてにネットコンテンツを要求することになるのですが、あまりのリクエスト数の多さに処理しきれなくなってしまうのです。
こういう状況をサーバーがダウンするといったりするのですが、この状況を悪意を持って仕掛けるサイバー攻撃というのも存在します。
これに対し、IPFSではアドレスに対して要求するのではなくネットワーク全体に要求します。
イメージとしては「〇〇というタイトルの映画持ってる人!手を挙げて」という感じでネットワーク全体にリクエストして、手を挙げた人たちから少しずつコンテンツを送ってもらうといったことが可能です。
この構造であれば、リクエストは常に集中することなく、世界で同時に同様のリクエストがたくさん起こったとしても、ネットワーク全体で分散してリクエストに答えることができるというわけです。
しかし、このようにネットワーク全体にリクエストするためには、ネットワーク全体が要求されたコンテンツがどんなものであるかをわかっている必要があります。
その為にIPFSネットワークはコンテンツの内容を識別して、内容と1対1で対応し、重複することがない「ハッシュ」と呼ばれる文字列を割り当てて情報を管理します。
全く同じ内容のコンテンツには全て同一の「ハッシュ」になりますが、少しでも内容が異なれば、全く別の「ハッシュ」が割り当てられます。
HTTP方式のアドレスごとに情報を管理する仕組みを「ロケーション指向」と表したりするのに対して、こういったIPFS方式の情報の管理の仕方は「コンテンツ指向」と表され、この仕組みによって、ネットワークはリクエストと寸分も違わないコンテンツを返すことができます。
このように画期的で効率的なアイデアで構成されるIPFSですが、この通信の仕組みが理想的に機能するためには、もう一つ必要な要素があります。
それは世界からのリクエストに答えるために待機しているコンテンツを保存しておくストレージが充分に分散しているということです
例えば一つの巨大なデータセンターに全てのコンテンツを保存していたのではIPFSでコンテンツをリクエストしても、HTTP同様にリクエストが一つのロケーションに集中してしまいます。
ですからIPFSが真価を発揮するためにはIPFS方式の分散型ストレージネットワークが世界規模で必要なわけです。
そして、それを可能にするのが「filecoin(ファイルコイン)」です。誰でもファイルコインのネットワークに参加してストレージを提供することができ、提供する容量に応じて自動的にブロックチェーンを通じて報酬がもらえる仕組みになっています。
ストレージを提供することをマイニングといい、ストレージを提供する人をマイナーといいます。
マイナーが報酬を得るためにはファイルコインのネットワークに、常時接続されている必要があり、確実に提供できる空き容量や、破損などなく確実にコンテンツを保存していることについて定期的に証明する必要があります。また、定期的な証明が途切れたり、保存しているコンテンツに不備が生じると、あらかじめデポジットしている資金から罰金が引かれる仕組みになっています。この仕組みにより、ファイルコインが形成する分散ストレージネットワークは常にオンラインで高い信頼性で保つことができ、ストレージとしての品質を自律的にキープできるように設計されています。
ファイルコインのストレージにコンテンツを保存したいクライアントには、公開のマーケットが用意されており、沢山のストレージマイナーの中から、スピードや空容量、信頼性などをもとに、需給バランスが決定する相場価格で入札することができるので、クライアントにとって競争的な価格を維持することができるだけでなく、より早く、より信頼性の高いストレージへと自律的に進化し続けるように、また需要に応じる形でマイナーのロケーションが分散していくように設計されています。
そして、2020年10月15日にファイルコインのメインネットが公開され、次世代型IPFSネットワークは最低限のインフラが整い、その理想形であるweb3.0に向けて本格稼働を始めています。
メインネット公開から2カ月が過ぎた12月8日時点でファイルコイン分散ストレージネットワークには850のマイナーが参加し、1.27エクサ(ペタの1000倍,テラの100万倍)バイトの利用可能なストレージを提供しています。